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建設業のISO審査やコンサルティングに携わっていると、
よく目にする光景があります。
「わたしがISOの管理責任者です。」
そう名乗られた方を見ると、名刺には代表取締役社長と書かれています。
さらに話を聞いてみると、営業も行う。
技術者として現場のフォローもする。採用面接もする。経営計画も作る。
積算も入札もする。そしてISOの責任者も兼ねている。
中小建設業では決して珍しい話ではありません。
むしろ、会社のことは全部社長がやるという会社の方が多いかもしれません。
しかし、その状態は本当にISOが求めている姿なのでしょうか。
この問題を考えるためには、「トップマネジメント」と「管理責任者」
二つの言葉の違いを理解する必要があります。
「管理責任者」とは
まず知っていただきたいのは、現在のISOでは、
「管理責任者を置かなければならないという要求事項は存在しない」ということです。
以前の規格では管理責任者の任命が必須でした。
そのため、長年ISOに取り組んでいる企業ほど、
「管理責任者は必ず置かなければならないもの」という認識を持っています。
ところが2015年版への改訂によって、この考え方は大きく変わりました。
現在の規格には、そもそも「管理責任者」という言葉が出てきません。
管理責任者を置くかどうかは組織の判断に委ねられているのです。
建設業における管理責任者の役割
この話を建設業のお客様の前ですると、
「それなら、うちも管理責任者は不要ですね」と言われることがあります。
しかし、実は、建設業においては逆の解釈となります。
なぜでしょう。
建設業という業界は、責任と権限を明確にする文化の上に成り立っています。
建設現場では、誰が何を担当し、どこまで責任を負うのかが明確に定められています。
主任技術者や監理技術者には法令で役割が定められていますし、
現場代理人には現場運営の責任があります。
施工計画書や施工体制台帳を見ても、誰がどの業務を担当するのかが明示されています。
建設業では、「誰かがやるだろう」では仕事が成立しません。
品質管理も安全管理も、それぞれ責任者が存在するからこそ機能しているのです。
ISOの管理責任者という考え方もこれとよく似ています。
極端な話をすれば、法律が変わり、主任技術者が不要になったからといって、
現場管理そのものが不要になるわけではないのと同じです。
誰かが品質・環境・安全に関する取り組みを取りまとめ、
組織全体を前に進める必要があります。
ここでよくあるのが、それなら社長が管理責任者を務めればという考え方です。
もちろん、それ自体は可能ではあります。
審査でも「トップマネジメント兼管理責任者」という体制が不適合になることはありません。
ただし、私は建設業の経営者にはあまりお勧めしていません。
理由はシンプルです。
建設業の社長は想像以上に忙しいからです。
ISOまで一人で抱え込むと、どうしても後回しになります。
結果として、審査前だけ慌てて記録を整える。
内部監査もマネジメントレビューも形式だけになる。
社長の能力の問題ではありません。
単純に役割が集中しすぎているためです。
従業員が五名程度の会社であっても、工事担当や総務担当、
あるいは将来の後継者候補に管理責任者の役割を委譲した方が、
結果としてISOも会社経営も上手く回るケースを私は数多く見てきました。
「トップマネジメント」とは
もう一つ、混同されやすいのが「トップマネジメント」です。
外部審査ではトップマネジメントへのインタビューが行われます。
審査員はISOの知識を確認したいわけではありません。
組織を取り巻く環境をどのように認識しているのか。
顧客や発注者から何を期待されていると考えているのか。
品質目標はなぜその目標にしたのか。
人材不足や技術承継といった経営課題にどのように取り組んでいるのか。
そうした質問を通じて、トップマネジメントが本当に組織をリードしているかを確認しています。
ここでご注意いただきたいことがあります。
ISOは「トップマネジメントは代表取締役でなければならない」とは言っていません。
ISO9001:2015の5.1項では、トップマネジメントは
品質マネジメントシステムの有効性について説明責任を負い、品質方針や品質目標を定め、
それらを組織の戦略的方向性と整合させなければならないとされています。
ISOでは、トップマネジメントを単なる役職名としてではなく、
組織の方向性を決定し、その結果に責任を負う存在として位置付けています。
建設業におけるトップマネジメント
例えば、会社が今後どの分野の工事に注力するのか、
元請比率を高めるのか、公共工事を増やすのか、
人材育成に投資するのかといった経営判断は、
通常、現場代理人や工事部長が決めることではありません。
会社の方向性を決める人がいます。
ISOがいうトップマネジメントとは、そのような意思決定を行う人のことです。
肩書きが社長であることよりも重要なのは、
会社全体を俯瞰し、組織の方向性を説明できることです。
場合によっては会長や常務が「トップマネジメント」を担うことは往々にしてあります。
重要なのは肩書きではなく、実質的にその役割を担っているかどうかです。
建設業がISO運用でつまづかないために
建設業のISO運用がうまくいっている会社を見ると、共通点があります。
社長は社長の仕事をしている。
トップマネジメントはトップマネジメントの仕事をしている。
管理責任者は管理責任者の仕事をしている。
そして各部門がそれぞれの役割を果たしている。
この分担ができています。
ISOは書類を増やすための制度ではありません。
会社をより良くするためのマネジメントツールです。
規格に書いてあるからどうするかではなく、
自社をどういう組織にしたいのかという視点で、
トップマネジメントと管理責任者の役割を考えていただきたいと思います。
その視点を持つだけで、ISOは認証維持のための仕組みから、
組織づくりのための仕組みへと変わっていくはずです。
ISO9001やISO14001などの規格 について知るなら
国土交通省直轄工事における総合評価落札方式の運用ガイドライン
執筆者 雨谷文代

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