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建設業が直面する課題とは
2025年12月3日、長野商工連合会・南箕輪村商工会様にて「2025年建設業法改正のポイント」をテーマに講演を担当させていただきました。当日は、寒冷前線が通過中の雪が舞う寒さの中、しかも夕刻からの開催となりましたが、会場に足をお運びいただき、またオンラインでも多数のご参加を賜りました。改めて心より御礼申し上げます。
今回のセミナーでは、「2024年問題」「2025年建設業法改正」「CCUS(建設キャリアアップシステム)」「猛暑対策」「週休二日制」「ISOにおける気候変動リスク」など、いま建設業界が同時に向き合わなければならない課題を、制度設計と実務運用の両面から整理してお伝えしました。これらは、国土交通省が建設業の担い手の確保と定着、そして安全・品質持続可能な建設業の実現に本気で取り組み、業界構造そのものを変えようとしている政策の流れの中に位置付けられています。
建設業における担い手確保の取り組みについて(国土交通省より)(外部リンク)
私自身、30年以上にわたり建設業の現場と向き合い、ISO審査、経営事項審査、人事制度構築に携わってきましたが、これほどまでに国が明確な意思を持って建設業界に働きかけを行った年は見たことがありません。
建設キャリアアップシステムを活用するために
セミナーのなかで重点的にお伝えしたのが、国土交通省が今、建設事業者に本気で求めている方向性です。その象徴がCCUS、建設キャリアアップシステムです。CCUSは、技能者一人ひとりの技能、資格、経験を客観的に可視化する仕組みであり、単なる登録制度ではなく、建設業担い手の中長期的な人材育成を目的としています。人材育成と処遇改善を連動させるための仕組みである、ということにもかかわらず、現場では「事業者登録をしただけで実質動いていない」「カードリーダーは置いているが、タッチして終わり。社内の人事評価や賃金と結びついていない」という組織が多いのが実情です。
そこで私は、CCUSを社内の人事評価制度や職能資格等級制度、または賃金制度とどう連動させるのか、具体的な考え方をお伝えしました。実はCCUSは、建設事業者の人事労務管理の土台として極めて有効な仕組みなのです。
気候変動への取り組みが必須となる時代へ
実は今、多くの建設事業者が総合評価や経営事項審査での加点を目的として認証を得ているISOの世界でも、大きな変化が起きています。ISO9001、ISO14001、ISO45001といった主要規格を含むほとんど全ての規格において、「気候変動リスク」を経営課題として組み込むことが正式に要求事項となりました。酷暑、集中豪雨といったリスクが、施工品質や環境パフォーマンス、労働安全にまで直結する時代になったのです。ISOの認証を引き続き得ていくためには、気候変動への取り組みが欠かせません。
また、今回のセミナーでは、来夏に向けて動向が注目される猛暑対策についても詳しく解説しました。国土交通省では、7月、8月の猛暑期間に現場施工を回避する夏季休工モデルを、舗装工事などを中心に試行しています。これは、作業員の健康管理、施工品質の安定、さらには若手人材の確保にまでつながる取り組みです。実際に国交省関東地方整備局が公表している資料でも、猛暑回避が担い手確保と品質向上の双方に効果をもたらしていることが示されています。
しかし、営利企業が7月、8月の2ヵ月間をすぐさま不就労日にできるかといえば、それは限りなく不可能に近いのではないでしょうか。そこで、セミナーでは、夏季休工を行う場合のモデル出勤カレンダーを示して、現状のカレンダーからの移行プロセスを示しました。
夏季休工や長時間労働規制は取扱いが難しい問題です。稼働時間が抑制されても、それが工期の長期化や収益性の悪化を招くのであれば本末転倒です。制度改正や行政施策は、単体で対応しても効果は限定的であるどころか、場合によってはマイナス側面が強調されます。重要なのは、人事労務管理と「安全・品質・環境」への取り組みを統合して運用することではないでしょうか。これらがバラバラに存在している企業では、人材は育たず、定着もしません。一方で、これらを一つの仕組みとして連動させることができれば、若手が成長し、収益率の改善も期待できます。
30年度に勝ち残るために、今、必要なこと
私がこれまで全国で数百社の建設事業者を見てきて、強く感じるのは、人が集まる会社と人が離れていく会社の差は、設備でも受注額でもなく、人をどう扱っているかに尽きるという事実です。給与だけで人は定着しません。休みだけでも足りません。「成長できるか」「努力が報われるか」「この会社で将来が描けるか」。この三つに、若手人材は極めて敏感です。
今回の南箕輪村でのセミナーでも、参加者の皆様が非常に真剣な表情で頷きながら話を聞いておられた姿が強く印象に残っています。制度改正への不安、採用への悩み、若手が定着しない苦悩。そのすべてが、今の建設業界のリアルな声だと感じました。だからこそ私は、これらの問題を「ピンチ」ではなく、「人材を大切にする会社が勝ち残るためのふるいが目の前にあるのだ」とお伝えしました。30年後も繁栄する建設会社になるために、今、何をすべきなのか。今回のセミナーが、その命題を切り拓くきっかけになったのであれば、講師としてこれ以上の喜びはありません。
実は、今回のセミナー終了後に商工会のご担当者様と小一時間ほどお話しする中で伺った、非常に興味深い「裏話」があります。今、国や県から各地の自治体、商工会に対して、「地元の建設事業者を本気で支援せよ」という強い要請が出ているとのことでした。表にはなかなか見えにくい部分ですが、行政サイドでも「担い手不足は、もはや放置できない課題である」という共通認識が、確実に広がっていることを強く感じました。今回のセミナーそのものが、まさにその流れの中で実施されたものであり、決して一過性の取り組みではなく、今後さらに各地で同様の動きが加速していくことを予感させる時間でもありました。
最後に、このような貴重な機会をお与えくださった長野商工連合会様、南箕輪村商工会様、そしてご参加いただいたすべての皆様に、心より感謝申し上げます。今後も私は、建設業に特化した人事制度構築、ISO認証取得支援、そして社会保険労務士・行政書士業務を通じて、日本の中小建設業が30年後も誇りを持って繁栄し続けられるよう、全力で伴走してまいります。
執筆者 山本昌幸

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