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建設業の未来を支える制度理解から、業界の持続可能な働き方を考える
2025年11月5日、
長崎建設新聞社様の社員向けオンライン社内研修において、当社あおいコンサルタント株式会社が講師を務め、「建設業の仕組みと公共工事進出の意義」をテーマに講義を行いました。
研修は、建設業界を長年取材する記者の方々が、制度や現場実態をより深く理解し、地域の建設企業に寄り添った報道を行うための社内教育の一環として実施されたものです。
今回の研修では、公共工事受注の仕組みや経営事項審査(経審)制度の概要など、建設業を支える行政的な枠組みをわかりやすく解説しました。
特に、公共工事が中小建設業者の経営安定と人材確保に果たす役割について、資金繰り・信用力・採用力といった具体的な観点から紹介しました。
公共工事を受注することは、単なる売上拡大策ではなく、企業が社会から選ばれる存在となるための基盤づくりにほかなりません。
建設業には下記に記載する通り、複雑な制度的背景があります。
研修では、これらを踏まえながら、建設業が社会から求められる存在であり続けるために、今何を整備すべきか、建設事業者をサポートする専門紙として、何ができるのかを実践的に考える内容としました。
建設業界全体は今、労働環境の抜本的な転換期を迎えています。
2024年の時間外労働上限規制の適用を契機に、発注・受注双方で週休二日制工事への移行が加速しました。
読売新聞(2025年9月21日付)によると、全国的に建設業界が一斉休業の取り組みを進める動きが見られ、従来「休めない業界」とされた建設業に、新しい常識が根づきつつあります。
これは、労働環境の改善と若年層へのアピールの両立をめざす好例といえるでしょう。
読売新聞「建設業、夏季休業を導入へ」
週休二日制工事や夏季休業の制度化は、建設業の働き方改革として大きな前進ですが、一方で新たな課題も生まれています。
それは、労働時間が短縮される一方で、年間に受注(落札)できる工事件数が減少する可能性があるという点です。
稼働日が減れば、必然的に請負可能な工事量も限られます。
結果として、従業員の賃金原資の確保が難しくなる恐れがあり、制度の理想と現実のバランスをいかに取るかが問われています。
この課題を乗り越えるには、限られた時間の中で確実に利益を上げる経営体制への転換が不可欠です。
そのための第一歩が生産性の向上です。
建設現場では、ドローン測量、ICT建機、電子黒板、クラウド施工管理など、DX化の流れが急速に進んでいます。
これらの技術は、従業員数10人規模の小規模事業者でも既に見られるものであり、作業時間の短縮や人為的ミスの削減だけでなく、データ共有による現場の効率化をもたらし、生産性向上のための現実的な手段として期待されています。
しかし、企業側の努力だけでは限界があります。
発注者との対話や交渉によって、適正な工期や金額を確保することも欠かせません。
これまで慣習とされてきた過剰な短納期や価格競争を見直し、施工の品質と労働環境を両立させるための交渉力が、今後の事業運営には求められます。
さらに、組織内部にも目を向ける必要があります。
工事量が変動する中で、社員のモチベーションと生活を守る人事・賃金制度の見直しが不可欠です。
たとえば、成果に応じた評価制度への移行、スキル(職能)の獲得と賃金の連動、バックオフィスのキャリアパス整備など、制度的に能力と成果で報いる仕組みを構築することが重要です。
次に、業界全体の制度的土台として注目されるのが、いわゆる「担い手三法」建設業法・入札契約適正化法・公共工事品質確保法の改正です。
国土交通省が進めるこの法改正は、入札制度の見直しに留まらず、持続可能な建設業の実現を目的としています。
発注者の責務として、労働環境・処遇改善を考慮した契約を行うことが求められるようになり、受注者側には、適正な工期管理や技能者の育成体制の整備が義務づけられました。
これにより、価格競争一辺倒だった公共工事の仕組みが、品質・人材育成・安全といった“総合力”を評価する方向へとシフトしています。 国土交通省「担い手三法の改正について」
これらの動きは、建設業界の価値観を短期視点の利益獲得から、長期視点の信頼獲得へと転換するものです。
中小建設にとって今後重要なのは、ISO9001(品質)、ISO14001(環境)、ISO45001(安全衛生)といったマネジメントシステムを基盤に、法令遵守・安全・品質・環境・人材育成を一体化した経営体制を整えることです。
これらの仕組みを有する企業こそ、入札の総合評価方式で高く評価され、将来的に人材・顧客・地域から選ばれる存在になります。
今後の建設業の課題に対応するため、各自治体では補助金制度を整備しています。
札幌市ではICT施工の導入などを支援する建設業企業支援事業、愛媛県では週休二日制や人材確保を支援する働き方改革支援事業、大分県では建設DX推進補助金によるデジタル化支援が実施されています。
これらを活用しながら、DX化・人事制度改革を一体的に進めることが、一歩先行く建設業のモデルケースとなるでしょう。
建設業は今、地域社会を支える総合産業へと進化を遂げる過程にあります。制度を理解し、自社の強みを正しく伝えることが、次世代の担い手を惹きつけ、持続可能な企業経営を実現する第一歩です。
当社では、引き続き建設業を中心にISO認証取得支援、経営事項審査(経審)対策、公共工事進出コンサルティング、人事制度構築支援を通じて、企業の経営基盤づくりと人材育成の両立を支援して参ります。
執筆者 雨谷文代

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